師長座談会

看護師として果たすべき使命
病棟スタッフに真剣になるから、自分にも周りにも「成長」がある

お名前 Nさん

所属 血液内科病棟

お名前 Tさん

所属 外科・整形外科病棟

お名前 Yさん

所属 消化器内科・呼吸器科病棟

師長としてコロナと向き合った日々

-2020年1月以降新型コロナウイルスが広まったとき、医療現場ではどのような変化や衝撃がありましたか?

Yさん 赤十字病院である以上、地域の人のためにコロナを受け入れるのは当たり前のことだったとしても、得体の知れないウイルスは、自身や家族を守るという考えだけでなく、 病棟の患者さんを守るという考えからも医療スタッフはみんな大きな不安を抱えていたと思います。

Tさん それでも、仕事を止めるわけにはいかない。コロナ病棟はとくにですが、そのほかの病棟も非常に緊迫した毎日が続きました。最大の不安は、未知であるということ。どのスタッフも医療従事者としての使命感のような気持ちと感染の恐怖との闘いだったように思います。

Nさん スタッフも様々な環境の人がいて、様々な考え方がある。それは当たり前だけど、やらないといけない。スタッフのメンタルケアをしつつ、師長としての葛藤みたいなものも感じていました。

Yさん 私は4月に異動したと同時にコロナ病棟になり、まだスタッフとも信頼関係が築けていない状態での受け入れ体制構築は難しいなと思いました。病棟スタッフからしたら、着任早々のよく知らない師長から「コロナ患者を受け入れる」と一方的に言われ不安しかなかったと思います。でも、看護師の使命感だけでコロナ患者を受け入れることを決断してくれました

なので、スタッフの信頼が厚かった係長さんにも協力してもらいながら、私には話せない不安や心配を拾い上げるようにしました私もスタッフとコミュニケーションを積極的に取って、一つひとつずつ問題をクリアにしていきました。着任してからは、スタッフ一人ひとりと話す時間を設けて私の目指すことを説明し、前向きな言葉しか使わないよう心がけましたね。そうやって関係性を構築していく中で、スタッフのキャラクターや得手不得手など特性が分かっていって、個々のスタッフのいいところを伸ばせるようにフォローしました。

また、スタッフの要望や気持ちを代弁したり…。感染の認定看護師や慢性疾患の専門看護師、看護部の方々にサポートしてもらいながら、どうすれば安全に受け入れられるか考えました。当初は病棟外からのサポートで成り立っていたことが、徐々にスタッフ自ら考え動けるようになっていきましたね。

Tさん 私が受け持っていた病棟は、コロナかどうかわからない「疑似症病棟」になってほしいと打診を受けていて。病院の方針で決まっていたことだったので、やらなければいけないとは思っていました。でも、コロナかもしれない、コロナかどうかわからない人を受け入れるというのは気持ちの区切りも難しくて…。看護師の負担にもなる完全防備にするかどうかも感染管理NSとも何度も話し合いました。私は半分のスタッフとは20年ほど一緒に働いていたけど、半分は初めてで。スタッフのことを理解するために対話するしかないと考えました。Yさんと同じで、トップダウンではなく「どうしていきたいか」と相談して進めていくことで、新たな信頼関係を構築していくことだと改めて実感しましたね。

Nさん 受け持っていた病棟の血液内科は移植などの処置も膨大で忙しいこともあり、慣れない他科を受け入れるのは簡単ではなかったと思います。それでも、呼吸器系や消化器系の経験があるスタッフも在籍していたので、スタッフ同士が頼り合えるように「〇〇さんは経験ある診療科だから聞いてみて」と働きかけました。他の病棟から頼まれたらどんな疾患の人でも、師長の私が「受けます」と断らない姿勢を見せて「大丈夫、できるできる」とスタッフを鼓舞してフォローすることで、むやみに怖がることなく他科を受け入れることができたと思います

Tさん この3年、「やらざるを得ない」状態でここまできた感じですね。その場その場で踏ん張ってきたという意識が強いかもしれません。

Yさん がむしゃらに走り続けてきましたね……。3年前と比べると自分が成長していると思える部分もあって大変だったけど、この経験で看護部一人ひとりが強くなった気がします。自分で考えて動く、相談しつつも判断するということができるスタッフが格段に増えたことがその証じゃないかな。そして、師長の私たちにもスタッフ一人ひとりと向き合うマネジメントの大切さを再確認したと思います。

看護の最前線で感じるスタッフを育てることの重みとやりがい

-そのような大変な環境のなかでの師長としてのやりがいや、心の支えはどのようなものだったのでしょうか?

Yさん 思い返すと、状況は違えど、同じ立場の師長さんたちが毎日毎日、根気よく話を聞いてくれて、それでなんとか乗り切れたなって。

Tさん どの病棟もほんとに大変な状況で、YさんもNさんも頑張っているなっていつも思っていたので、私はまだ弱音を吐くところじゃないと、そう思って看護部長に自分ができることはなにか相談していたりしました。

Yさん Tさんと廊下で会うと、通りすがりに「頑張ってるねえ」と声をかけてくれて、「分かってくれているんだ」とほっとして、病棟に戻ってまた頑張ろうって思ってました。

Nさん 確かに大変な仕事ではありますが、私が師長を続ける理由は、看護師さんが成長する瞬間を見られることが嬉しいからですね。「あと一歩、飛躍できるといいな」と見ていて、チャンス!と思ったタイミングでいい働きかけができて、その子の顔がキラッと輝いたり、私が直接関わらなくても、相手の言動が「成長した」と感じられたりすることが、やりがいなんです。

Yさん 私は看護師の仕事はすごく好きだから、しんどくても辞めたいと思ったことはないですね。苦労することがあっても、看護は楽しくてやりがいがある仕事だから、そこはスタッフに伝えられるように、見せられるようにって思ってます

Tさん 患者さんから病棟スタッフを褒めていただけたり、「コロナ禍で大変だね。みんな頑張って」と言われたりすると師長として嬉しくなります。スタッフがしんどい患者さんの状況をなんとかしてあげたいと、自分から「こうしたらいいでしょうか」と発信してくれると「こういう子をもっと育てなければ」と使命が自分に課されたと思いますね。

Nさん 投げだしそうにもなるときがあっても、師長になったことは後悔はないし嫌だとも思ってはいないです。でも、現状は「師長をやって良かった」と胸を張って言える少し手前の段階で、まだ私は学んでいる最中だから、いつかそういう日が来るのを楽しみにしています。

Tさん 気持ちが落ち込むこともありますが、だからといってそこで引いてしまうのは悔しいなと思います。「師長と話したら元気が出た」とか、「頑張ろうと思えた」とか、そうスタッフに思われる存在になれたら嬉しいですね。

患者さんにより良い医療サービスを提供するために、強いチームをつくる

-師長である皆さんは看護部長と病棟スタッフをつなぐ中間管理職でもあると思います。日々の業務の中で意識していることや大切にしていることはありますか?

Nさん 私は看護師さんを育てることに奮闘しながら、病院からの経営的な方針を受けて踏ん張っているのが師長だなと痛感しています。「師長は全部自分でやらずに、スタッフの力を引き出しなさい」って看護部長から言われ、患者さんにより良い医療サービスを提供するために、看護師さんを育てるにはどうしたらいいだろうって奮闘しながら、日々試行錯誤です。

Tさん 特定の誰かが目立つより、それぞれが「やるべきことをできる人がやる」チームであるように気をつけています。朝のミーティングで看護部長から「あなたの考えや意見をちゃんと表現してみて」と促されて、自分で内省する過程の中で、私自身ものびしろがあると思っています。どんな状況でも「まだできることがあるんじゃないか」と思考が変化したことも、そのひとつです。私が病棟スタッフに向き合っているように、看護部長も私たちに向き合う中で、病院全体を俯瞰して改善したいと思っているのが分かるので、私も頑張ろうと思います。

Yさん 「チームであること」ですね。師長の自分がやったら早いこともあるけど、そうすれば育たない。それに一人ひとりの看護師に個性があり、強みがある。それぞれが認め合って、高めあう、フォローしあうような関係が構築できれば、やっぱりいいチームになる。いい看護が提供できる。そして、何より大切なのは愛情だと思います。毎日忙しく色々なことはあるけれど、医療と向き合い、スタッフも人間味ある人がたくさんいて、アットホームな看護部門だと思います。